任意後見契約
認知症、知的障害、精神障害などの理由により、判断能力が不十分な方を支援する制度として、法定後見制度があります。これは、判断能力が不十分な方を法律面、生活面で支援するために、その支援をしてくれる人(成年後見人など)を裁判所が選任してくれる制度です。すなわち、この制度は、すでに精神上の障害により判断能力が不十分な方を対象としており、元気な方はもちろん、身体的な衰え等を理由に何かしらの支援を受けたくても、判断能力がしっかりしている方は利用することができません。また、支援をしてくれる成年後見人等は、裁判所に選任権限があるため、本人やご家族が希望する人が成年後見人等に選任されるとは限りません。
一方、任意後見制度は、判断能力が不十分になる前に利用できる制度です。将来、認知症等により判断能力が不十分になったときに備え、あらかじめ支援を受けたい方と契約で、受けたい支援内容などを決めておくことができます。この契約を任意後見契約といいます。任意後見契約は公正証書によって作成しなければなりません。
任意後見契約は、将来の支援の予約のようなものなので、契約を結んだだけでは後見は開始しません。任意後見契約は、本人が精神上の障害により判断能力が不十分な状況になったときに、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てをし、任意後見監督人が選任されたときにスタートします。
任意後見人は、任意後見契約書に定めた代理権の範囲内で代理権を行使し、本人の支援にあたります。
ただし、成年後見人とは異なり、任意後見人には取消権がないため、本人が自らした法律行為については取り消すことができません。
【法定後見(※)と任意後見の比較】※保佐・補助を除く
法定後見 | 任意後見 | |
事前に必要な手続き |
なし | 公正証書で契約書を作成 |
対象者 | 精神上の障害により判断能力を常に欠く状況にある方 | 精神上の障害により判断能力が不十分な状況にある方 |
利用方式 | 家庭裁判所へ後見開始の申立て | 家庭裁判所へ任意後見監督人の選任申立て |
利用につき本人の同意 | 不要 | 必要。ただし、意思表示できないときは不要 |
後見人 | 家庭裁判所が選任した者 | 契約の相手方(受任者) |
後見監督人 | 必要に応じ家庭裁判所が選任 | 必ず家庭裁判所が選任 |
代理権 | 包括的な代理権と財産管理権(※1) | 契約書に定めた代理権 |
取消権 | 本人が自らした法律行為を取り消すことができる(※1) | なし(※2) |
報酬 | 家庭裁判所が決定 | 後見人の報酬は契約書で決定。後見監督人の報酬は家庭裁判所が決定 |
※1 日常生活に関する法律行為を除く
※2 本人が詐欺や悪徳商法等の被害にあった場合は、取り消すことができる場合あり
なお、任意後見契約による支援がスタートするのは、上述のとおり、本人の判断能力が不十分な状況になり、任意後見監督人が選任された時からです。
任意後見契約による支援がスタートする前から支援を受けたい場合は、任意後見契約の受任者と任意後見契約とは別に、財産管理等に関する委任契約を結び、支援を開始する方法があります。
ただし、この委任契約は、任意後見契約とは異なり、家庭裁判所による監督はありませんし、監督人の設置も義務付けられていません。
したがって、受任者の不正を防止するためにも、代理権の範囲を限定的に定めたり(広く与えすぎない)、監督人を置くなどして、契約内容を工夫する必要があります。
また、任意後見契約の受任者は、本人の判断能力が不十分な状況になり、任意後見契約による支援が必要になったときは、速やかに家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任を請求する必要があります。
受任者が、財産管理等に関する委任契約により既に支援を開始している場合や、財産管理等に関する委任契約を結んでいなくても、継続的に本人と交流がある親族の場合は問題ありませんが、そうでない場合、たとえば、受任者が、普段は交流が少ない親族の場合や弁護士、司法書士等の第三者である場合などは、本人の状況を知る機会が少なく、任意後見監督人の選任が遅れ、本人の保護を十分に図れない可能性があります。
したがって、このような場合は、受任者が、任意後見監督人の選任請求の機会を見過ごさないように、「これから私のことを継続的に見守って、認知症等になったときには、速やかに任意後見監督人の選任を請求してほしい」旨の契約を受任者と結んでおくとよいでしょう。この契約を継続的見守り契約といいます。
財産管理等に関する委任契約も継続的見守り契約も、任意後見契約とは異なり、公正証書によって作成する必要はありません。
ただし、将来の無用な紛争を防止するためにも、証拠力の高い公正証書によって作成する方が望ましいでしょう。
その他に任意後見契約と併用されることが多い手続きとして、死後事務委任契約と遺言があります。
これらについては、後述します。
(1)メリット
① 後見人を選べる
法定後見の場合、成年後見人等の選任権限が家庭裁判所にあり、希望通りに成年後見人等が選任されるとは限りませんが、任意後見の場合は、任意後見契約の相手方が任意後見人になりますので、本人が将来支援を受けたい方を選んで契約を結ぶことができます。
② 受けたい支援内容を自由に設計できる
受けたい支援内容について、代理権の範囲はもとより、その代理権の一つ一つに詳細な希望を盛り込むことができます。
たとえば、 「できるだけ在宅生活を続けられるように介護・福祉サービスを利用してほしい」、「〇〇の施設に入所したい」、「障害のある子のために私の預貯金を使ってほしい」など、本人の希望に沿って契約内容を決めることができます。
③ 後見人の報酬を決めることができる
法定後見の場合、後見人の報酬は家庭裁判所が決定するため、どの程度支払いが生じるのか予算だてができません。
一方、任意後見の場合は、任意後見契約書で後見人の報酬を自由に定めることができます。ただし、任意後見監督人の報酬は、家庭裁判所が決定します。
(2)デメリット
① 臨機応変に対応することが難しい場合がある
法定後見の場合、成年後見人の代理権は包括的な代理権であるため、代理権の範囲について問題になることはありません。
一方で、任意後見人の代理権は、任意後見契約書で定めた代理権に限られるため、代理権がない法律行為等について対応が必要になった場合に困ることになります。
代理権の範囲を変更するには、既存の任意後見契約を一旦解除して,、新たに任意後見契約を結びなおす必要があります(既存の任意後見契約はそのままに、追加したい代理権のみを付与する任意後見契約をもう1つ結ぶという方法もありますが、2つの契約が併存し、契約関係が複雑になるため、現実的ではありません)。
したがって、本人の判断能力が低下し、契約能力がなくなっている場合には、上記の方法を取ることができず、法定後見への移行を検討しなければならなくなります。
② 任意後見人の死亡等により任意後見は終了する
法定後見の場合、本人が死亡するまで、必ず成年後見人が付き続け、支援が途切れることはありません。たとえば、成年後見人が死亡した場合でも、次の成年後見人を家庭裁判所が職権で選任してくれます。
一方任意後見は、本人と受任者との間の契約ですから、任意後見人が死亡したり辞任したりすると任意後見契約は終了します。家庭裁判所が次の任意後見人を選んでくれたりはしません。
せっかくの任意後見契約も、受任者側の事情により、終了してしまうことがあり、一生涯支援者が付き続けるとは限りません。
③ 任意後見人には取消権がない
法定後見の場合、本人が自ら法律行為をしたとしても、それが日常生活に関するものでない限り、成年後見人が取り消すことができ、本人の利益を保護することができます。
一方で、任意後見人には取消権がなく、本人が自らした法律行為については取り消すことができません。ただし、本人が詐欺や悪徳商法等の被害にあった場合は、本人の取消権を任意後見人が代理して行使することができます(取り消したい行為に関する代理権が付与されていることが前提)。
(3)メリット?デメリット?
利用者によって受け取り方が異なるかもしれないのが、「必ず任意後見監督人が選任される」という点です。
本人としては、判断能力が低下した後でも、第三者である任意後見監督人(通常は弁護士又は司法書士)が任意後見人の業務を監督してくれるので安心できるかもしれません。
一方で、任意後見監督人には報酬が発生します。任意後見監督人は不要と思われる方にとってはデメリットかもしれません。
上記「1.任意後見契約とは」のところで述べたとおり、任意後見契約と併用して財産管理等に関する委任契約や継続的見守り契約を結ぶことがあります。
その他、任意後見契約を補完する制度として、死後事務委任契約と遺言があります。
任意後見契約でカバーできるのは、本人の生存中の支援です。
すなわち、任意後見契約の中で、自己の死後の事務(葬儀・火葬に関する事務、賃貸住宅の明け渡しに関する事務など)や遺産分けについて定めることはできません。
したがって、任意後見契約の受任者に死後の事務も頼みたいときは、任意後見契約とは別に、死後事務委任契約を結ぶ必要があります。
また、遺言で遺産の分け方を定め遺言執行者を指定しておくことにより、任意後見契約終了後の財産の引渡し先が明確になり、受任者の負担を軽減することができます。
さらに、生前お世話になったお礼として、受任者に遺産を分けたい場合もあるでしょう。そのような場合も、相続人間で争いが生じないよう、はっきりと遺言を残しておきましょう。
標準的な必要書類は、以下のとおりです。事案によっては、他の書類が必要となる場合があります。
- 本人の印鑑証明書、戸籍謄本、住民票
- 任意後見受任者の印鑑証明書、住民票
※ 上記証明書はいずれも発行後3か月以内のもの
当事務所にご依頼いただいた場合の手続の流れは、概ね以下のとおりです。
(1) ご相談、お見積もり
ご相談をご希望のお客様は、事前に電話又はお問い合わせフォームよりご予約をお願いいたします。
初回のご相談(90分まで)及びお見積もりは無料です。
(2) 必要書類の準備
上記「2.必要書類」に記載の書類をご準備ください。
手続に必要な戸籍、住民票等は、当事務所が代わりにお取り寄せすることもできます。ご遠慮なくお申し付けください。ただし、印鑑証明書については、ご自身でご用意をお願いしております。
(3) 任意後見契約書の文案の作成
① ご相談の内容や関係資料に基づいて、司法書士が任意後見契約書の文案を作成いたします。
② お客様には、希望通りの任意後見契約書になっているか、内容をご確認いただきます。
(4) 公証人(公証役場)との事前打ち合わせ
① 司法書士が公証役場に任意後見契約書の文案や必要書類を提示し、事前の打ち合わせをします。
② 任意後見契約書の内容が確定したら、実際に任意後見契約書を作成する日時(お客様が公証役場に行く日時)を決めます。
(5) 公証役場で任意後見契約書の作成
① 本人と任意後見受任者で予約した日時に公証役場に行きます。司法書士も同行させていただきます。
② 任意後見契約書の作成は、概ね以下のような手順で、公証人からの質問に対して回答する形式で行われます。
- 住所、氏名、生年月日(年齢)、職業、家族関係、保有財産の種類などについて質問がなされます。
- 契約や代理権目録の内容について質問、確認がなされます。
- 以上の口頭での確認が終わったら、公証人が任意後見契約書を読み上げます。その内容に間違いがないことを確認し、本人と任意後見受任者が任意後見契約書に署名押印をし、完成です。
手続に必要となる費用は、以下のとおりです。
(1) 実費(主なもの)
① 公証人の手数料
公証役場に支払う手数料等は、以下のとおりです。
- 公証人の手数料 11,000円(証書5枚目以降1枚につき250円の加算あり)
- 登記嘱託手数料 1,400円
- 登記手数料 2,600円
- 登記嘱託書郵送用の郵便切手代
- 正本謄本の作成手数料 1枚250円
② 各種証明書の交付(発行)手数料
手続に必要な主な各種証明書の1通あたりの交付(発行)手数料は、以下のとおりです。
- 戸籍謄本 450円
- 除籍・改製原戸籍謄本 750円
- 住民票・戸籍の附票 300円前後(市町村によって異なる)
- 不動産の登記事項証明書 480円~(請求方法や枚数によって異なる)
(2) 司法書士報酬(金額は全て税込表示)
88,000円
(備考)
- 上記報酬には、契約書の文案作成の他、手続に必要な戸籍、住民票等の取得代行、公証役場への同行・同席を含んでおります。
- 定型外の契約書・代理権目録を作成する場合や、遠方の公証役場で作成する場合など、事案によっては、上記報酬に、事案に応じた加算をさせていただく場合があります。
当事務所では、ご依頼をいただく前に必ずお見積もりをいたしております。ご依頼するかどうかはお見積もりを確認してからお決めください。
任意後見契約のことで分からないことやご相談事がございましたら、ご遠慮なくお電話又はお問い合わせフォームよりご連絡ください。
費用のこと、必要書類のこと、手続にかかる期間のこと、どんなことでも結構です。「こんなこと聞いても大丈夫かな?」と思うようなこともご遠慮なくお問い合わせください。
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