配偶者短期居住権
令和2年4月1日以降に開始した相続について、新たに配偶者短期居住権が認められるようになりました。
配偶者短期居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合において、残された配偶者が亡くなった方が所有していた建物に無償で居住していた場合は、所有者が亡くなった後も、一定期間、配偶者が無償でその建物に住み続けることができる権利です。
なお、配偶者短期居住権が認められるのは、居住していた部分のみです。たとえば、1階が店舗で、2階で居住していた場合は、2階部分のみが配偶者短期居住権の対象となります。
配偶者短期居住権の存続期間は、以下のとおりで、最低6か月は住み続けることができ、その間に転居先を探したり引っ越したりすることになります。
(1)居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合
この場合、次のいずれか遅い日まで住み続けることができます。「いずれか遅い日」ですので、早期に遺産分割協議が調い、居住建物の所有者が決まった場合でも、相続開始の時から6か月間は、その建物に住み続けることができます。また、遺産の分割に期限はないため、遺産分割が成立しない限り、ずっと住み続けることができます。
① 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日
② 相続開始の時から6か月を経過する日
(2)(1)以外の場合
たとえば、居住建物を第三者に遺贈する旨の遺言があった場合、遺贈により居住建物を取得した者は、いつでも「配偶者短期居住権の消滅の申入れ」をすることができます。この申入れがあった場合は、申入れの日から6か月を経過する日まではその建物に住み続けることができます。逆を言えば、その申入れがない限り、ずっと住み続けることができます。
同様に、配偶者が相続放棄した場合でも、居住建物の取得者から配偶者居住権の消滅の申入れがない限り、住み続けることができます。ただし、同じようでも、相続の欠格事由や廃除により相続人の資格を失った配偶者については、配偶者短期居住権は成立しません。
(1)用法遵守義務
配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければなりません。つまり、居住建物の使用にあたっては、建物を借りて住んでいる場合と同様の注意を払う必要があります。
なお、配偶者居住権とは異なり、配偶者短期居住権には、使用権限のみが付与され、収益権限が認められていません。
(2)譲渡の禁止
配偶者短期居住権は、配偶者の居住を目的とする権利ですので、第三者に譲渡することはできません。
(3)無断で第三者に使用させることの禁止
配偶者は、居住建物の取得者の承諾(遺産分割前は、配偶者以外の全相続人の承諾)を得なければ、居住建物を第三者に使用させることはできません。
(4)居住建物の修繕等
配偶者は、居住建物の使用に必要な修繕をすることができます。
居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができます。
(5)居住建物の費用の負担
居住建物の通常の必要費は、配偶者が負担しなければなりません。
例えば、居住建物に関する通常の修繕費や固定資産税は配偶者の負担となります。
(1)消滅事由
配偶者居住権は、次の場合に消滅します。
① 存続期間の満了
上記「2.存続期間」の経過により、配偶者短期居住権は消滅します。
② 配偶者の死亡
配偶者短期居住権は、配偶者のための権利ですので、その死亡によって当然に消滅し、相続の対象とはなりません。
③ 居住建物の全部が滅失等により使用収益できなくなったとき
居住建物が地震等により全壊してしまった場合など、居住建物全体が使用できなくなった場合は、配偶者短期居住権は消滅します。
④ 配偶者が居住建物の単独所有者となったとき
配偶者が居住建物の単独所有者となったときは、配偶者短期居住権がなくても居住建物を使用することができますので、配偶者短期居住権は消滅します。
⑤ 配偶者が配偶者居住権を取得したとき
配偶者が遺産分割により配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は消滅します。
⑥ 居住建物の所有者から配偶者居住権の消滅請求があったとき
配偶者が上記3-(1)用法遵守義務や(3)無断で第三者による使用させることの禁止に違反した場合において、居住建物の取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができます。
(2)配偶者短期居住権の消滅による居住建物の返還義務
配偶者は、配偶者短期居住権が消滅したとき(配偶者居住権の取得により消滅した場合を除く)は、居住建物の返還をしなければなりません。
ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができません。
配偶者居住権とは異なり、配偶者短期居住権は登記することができません。したがって、万一、配偶者短期居住権の存続期間が経過する前に、居住建物を第三者に譲渡され、登記を備えられた場合は、当該第三者に対して配偶者短期居住権を主張することができず、立ち退きを求められることになる可能性があります。